これは僕が小学校に入学する前のことだ。

その頃の僕の仕事に、夕食時に父を呼ぶというものがあった。

ついでに父が何をやっているのかを見るというのが習慣だった。

大抵父は何やら難しいそうな本を読むか、パソコンに向かい文を書いているかのどちらかだった。

僕はそんな父を見て、作家なのではないかと思った。

当時は、文を書く仕事といえば作家しか知らなかったからだ。

けれど引っ込み思案な僕は、父に何の仕事をしているのか聞くことが出来なかった。

そんなある日、父は何を思いついたのか仕事場に連れて行ってくれると言った。

僕は父の仕事に興味があったので、仕事場に行く日を楽しみに待っていた。

それが二日後だったので、二日間をわくわくしながら過ごした。

いざ仕事場に着いた。

そこは本がたくさん積んであったり、ホワイトボードがあったりするだけで、いわゆる会社という雰囲気ではなかった。

それが気になったので「ここで何をやっているの」と思わず聞いた。

すると哲学という学問を研究していると父は答えた。

作家とばかり思っていた僕は不意を付かれた感じがした。

そんな僕の考えを察したのかそうでないのかは分からないが、父は続けて学者という職業に当たると言った。

僕はその頃からアインシュタインという学者が好きだったので、それと同じ職業の父をそのとき初めて尊敬した。

それでいつか学者になりたいと思った。

時は経ち僕は高校生になった。

もうその時は学者への憧れも父への尊敬の念もなくなっていた。

それで高校を卒業し適当な大学に行き適当な生活を送った。

けれどこのままでは一生父に対するコンプレックスを抱き生きなくてはならない…と、ふと思った。

そして僕はその大学を中退し、再び大学に行くために勉強をした。

そのときの志望校は父と同じ大学だ。

まだ僕は、父の背中を追い続けている。

いつか父を追い越す日を夢見て。